日本労働社会学会設立趣意書

1 労働研究をめぐる情勢

 現在、産業・労働の世界は大きな変動期に入っている。1980年代に入って顕著になってきたME技術革新、国際的経済摩擦、産業の空洞化(サービス経済化)、さらに高度情報化社会、高齢社会化など、日本社会を取り巻く諸情勢の変化は、産業構造・企業構造、および労働態様の不断の変化を迫ることになった。それにともない、産業・労働社会の状況は大きく変化しつつあり、労働者生活、労働運動もまた、大きな変化を余儀なくされている。このことは、われわれ労働社会学研究者に、従来の理論的枠組み、研究方法などにたいする再検討と、産業・労働の現実を正確に把握するための実証研究の必要性と、それにもとづく新たな理論的枠組みの構築を迫るものとなっている。

2 労働社会学の現状

 このような新たな研究の必要性にもかかわらず、労働社会学の現状は必ずしも満足のいくものとなっていない。日本の労働社会学は、過去において先輩研究者による優れた実証的研究の蓄積をもっており、また1970年代以降も、全国各地において、研究グループや個人による、さまざまな優れた実証的研究が進められて来た。それらは、関連諸科学に比して誇り得る成果であった。それにもかかわらず、これまで、これらの諸研究の成果を相互に交流し、共同研究のための協力関係を発展させていく全国的な研究交流の場が形成されてこなかったことは、労働社会学を停滞させる一つの要因となってきた。
 そのことは、近年における日本社会学会の会員数の増加に反比例して、産業・労働社会学研究者数の減少という実態として現れてきている。とりわけ、この領域において実証的研究に従事する若手研究者が激減してきたという事態は、産業・労働社会学の発展にとって深刻な問題を投げかけてきた。

3 労働社会学研究会の経過

 このような危機的状態に危惧を抱いた有志が語りあい、1982年4月、労働社会学研究会を発足させた。それ以来6年間、労働社会学研究会は月一回の研究会、年一回の研究大会と工場見学会、年三回の会報発行を主たる活動として、活動をおこなってきた。この間、会員数は増加の一途をたどり、海外在住の外国人会員を含めて100名近くに達している。研究大会は、各地でおこなわれている研究プロジェクトの優れた成果の交流と、会員相互の研究交流の場として成果をあげ、意欲を喚起する機会となった。その結果、実証研究にのりだす若手会員も漸増の傾向にあり、その地域間交流も始まっている。文部省科学研究費を得て、産業構造の変化と労働者構成の変化に関する総合研究に着手する有志のグループ活動もおこなわれている。会報は15号まで発行され、会員相互の研究交流のために一定の役割を果たした。

4 学会結成の動機

 このような労働社会学研究会の活動成果を踏まえて、私たちは日本労働社会学会を結成し、次の段階へと発展することを期したいと考える。すなわち、学会に改組することによって事務局体制の充実をはじめとして、組織体制を整備し、運営面の円滑化をはかることが可能となろう。また、全国に散在する労働社会学の研究者に呼びかけて広く会員を募り、相互の研究交流を活発にすること、各会員が核になって地域ごとに研究グループを作り、若手研究者の育成を図っていくこと、さらに各地における研究活動の成果を交換しあうこと、研究年報の発行、月例研究会や年次研究大会の充実をはかること、などによって労働社会学の研究水準の向上をはたすことが可能となろう。関連する諸学会との交流を通じて、研究水準の向上に努めることも可能となろう。
 私たちは、先輩研究者たちの研究成果の継承、6年間にわたる労働社会学研究会の活動の蓄積の継承、さらに全国各地の各研究グループや、個人によって繰り広げられてきた実証研究の成果の発展、そして次代をになう若手研究者の育成、などを期して、今、労働社会学における実証研究者としての尊厳をかけて、一歩飛躍するべき時期にきたと考える。

5 学会の目的と課題

 日本労働社会学会は、産業・労働社会学の研究に携わる研究者による研究成果の発表と相互交流をおこなうことを通じて、産業・労働問題に関する社会学的研究の発達・普及をはかることを目的都市、年一回の研究大会、随時の研究会および工場見学会の開催、会員の研究成果の報告および刊行、内外の学会、研究会への参加、などの活動をおこなう。
 全国各地の、志のある有志の参加を呼びかける。

1988年10月10日          
日本労働社会学会呼びかけ人一同